ただあの子になりたくて


「なによ、親に向かってその口の利き方。あんたのために言ってるんでしょ」

親に向かって。あんたのため。

虫唾が走って拳がぶるりと震える。

親がなんだ。

毎日嫌でも聞かされる、残業ばかりのお父さんとお母さんの醜い口喧嘩。

冷え切った家族。

望んでもいないのに、この家に産み落とされて、与えられたものは他人より劣っていて、そのくせ気に入らなけらば怒られる。

そんな親のどこが偉いというのか、私にはまったくわからない。

子供は、親が身勝手に望んだもの。

子供の方は、一度だって望んではいやしない。

「少しはちゃんとしてよ。椿ちゃんとか見習って」

その名に唖然として拳が緩んだ。

フラッシュバックする。


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