ただあの子になりたくて
それはもう、娘を見る目には見えなかった。
目尻に涙が溢れる。
みんな、器用で美人で人気者の椿の方がよかったのだ。
拓斗も、ずっとずっと大好きだった彼も、私自身のお母さんですらも。
「でもね、私を生んだのは、お母さんだよ。こんなケンカばっかりの家、生まれたくなかった。見た目も頭も椿みたいのが欲しかったってば! なれるもんならなりたいよ!」
力任せに花瓶をなぎはらった。
轟いたのは、タイルの床でガラスが粉々に砕ける音と、お母さんの金切り声の悲鳴だけ。
私の心の中の本当の悲鳴は、こんなちっぽけなものにも敵わない。
本当は、ただ愛して欲しかった、それだけ。
氷のようなガラスの欠片へ、涙が一粒静かに落ちた。
「もう、いい……。こんな家、二度と帰らない」