ただあの子になりたくて


「ええ、好きになさい! そんなわからずや、うちにはいらないわ!」

小さな玄関が破裂してしまいそうな声に、わっと涙が溢れ出た。

鞄が肩から落下した。

私には考える時間なんていらなかった。

瞬きの速さで身をひるがえし、体当たりのようにドアを押し開けると、闇夜の下に飛び出した。

視界の端だけで振り返る。

扉の隙間の明かりが細くなる。

当然、後ろから声などしなかった。

歯を強く食いしばり、なりふり構わず駆けだした。

冷えた風が私の全身を突き刺す。


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