ただあの子になりたくて
月にさえ、見放された夜だ。
目の前は、道も空も境界線のわからない闇で覆いつくされていた。
けれど、今の私にはそれすら怖くない。
もう、自分が心底どうでもいいから。
まばらにしかない街灯の下を無数に過ぎた。
向かってくる車のヘッドライトを何度も睨んでやった。
あたたかに光る家の窓の明かりから、いくつも目を背けた。
足は痛みっぱなしだけれど、ただひたすらに走った。
そう、走るしかなかった。
私にはもう、帰る家がないのだから。