ただあの子になりたくて


まただ。

椿になっても、私の願いは届かない。

突き飛ばしもせずに、そっと肩から手が離れる。

「見損なった、椿のこと。もういい。好きにしろよ」

あっさりと翻る憧れ続けた広い背中。

今も耳に残るぞっとするほど冷え切った声。

私は立ち尽くした。

彼の背が、廊下の角に消えていく。

踵すら見えなくなる。

頭の中で何かがガラガラと音を立てて崩れていく。


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