ただあの子になりたくて
毎日あのやる気のない目で、下ばかり向いてこの家に出入りしていた自分が浮かび上がってくる。
私はそんな昔の自分を追うように、ゆっくりと敷地へ足を踏み入れていった。
狭い庭の地面を踏みしめて、たった数段しかないポーチをそっと上がっていく。
そして目の前に現れた黒い玄関扉。
いつも重くて厚かった、一番大嫌いな扉。
その向こうには、あたたかいおかえりも、ただいまもなかった。
小学生の頃に見た、笑顔のお母さんはもう待ってはいなかった。
ただ冷え切ったお母さんの気難しい顔だけが待っていた。
私はふわりと、冷たいノブに手をかける。
電気がついていないということは、今は両親ともまだ病院なのだろう。