ただあの子になりたくて


今日を最後の日にしなければならないのに、このままなんて嫌だけれど、全ては私がまいた種。

ならばせめて今日の劇で、私のありったけの思いをぶつけよう。

私は俯き、緊張で冷えた指先を握る。

これがきっと、私が残せる最期のものになるのだから。

そんな時、私のかたくなっている肩へ、不意にあたたかい何かが触れてはっとした。

「そんなに緊張してどうすんだよ? 練習頑張ったんだから大丈夫だ。落ち着いて、持ってるもん全部出してこい。この俺様が太鼓判押してやる」

振り返れば、そこには地味なベストを着た水夫姿の拓斗が、得意げに歯を見せて立っていた。

私は不思議とほっとして笑う。

同時に開演のブザーが響き渡る。

「さあ、楽しんでいってこい!」


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