ただあの子になりたくて


「椿……だ……」

私ではない声が言う。

鏡に映るのは、間違えようもない私の友達、椿の姿。

呆然として、ゆるりとかぶりを振った。

寝ぼけた頭が目覚めていく。記憶が戻ってくる。

私はあの晩、やってくる電車の前に飛び込んだ。

そのあと、私の姿をした変な悪魔と喋った。

願いを聞かれて、私は椿になりたいと願って、意識を失った。

まさかと疑い、もう一度顔に障れば、鏡の中の椿もまったく同じように顔に触れた。

私はぽかんとしたまま、ベッドに崩れる。


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