ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
一応写メしておこうか。
でも、カメラを向けたら顔が撮れない。


「自撮りする?でも、なんだかそれもどうも…」


いつもはオシャレに縁のない私。
言うなればこれは、一世一代の賭けみたいなもん。


「郁也くん、どんな反応するかなぁ」


ワクワクしながら家を出た。

「もしかしたら帰りが遅くなる(帰らない)かもしれない」…とおばあちゃんに言い残して。



夏祭りの会場は市内の神社。
人目を気にしてタクシーで乗り付けた。


「浴衣がお似合いですよ」


バッグミラー越しに運転手さんからも褒められ、気を良くした私はお釣りも貰わずに車外へと飛び出した。



「暑いっ…」


パタパタとハンカチで仰ぐ。
待ち合わせの時間まで、どこかに隠れておこうとキョロキョロ辺りを見回した。


「いい所発見!」


参道の脇に立つ大きな石灯籠の後ろがいい。
程よく影だし彼氏が来ても見える位置だし。

慣れない下駄を鳴らして歩きだした。
裾が捲れるのが気にしながら、ちょこちょこと小股で歩く。


(郁也くんに手握ってもらおう)


ほくそ笑みながら妄想は拡がっていくばかり。
なんとか道路を渡りきり、神社の鳥居をくぐった。



(あれは……)


見覚えのあるシャツが目の前に見えてる。

水色とイエローのストライプシャツにモスグリーンの短パン。
後ろ姿も髪型もどう見ても彼氏だ。


< 2 / 209 >

この作品をシェア

pagetop