ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
(……なんだ。浴衣なのは私だけか)


ガッカリしつつも、気持ちを奮い立たせて近づいた。

彼の後ろから3mくらい離れたところで、腕に絡みつく細くて白い指の存在に気がついた。



「っもう、郁也ったら〜」


手首の辺りを軽く抓ってる女性がいる。

顎のラインで切り揃えられた黒髪が綺麗で、赤いバラ柄の浴衣を着てる人。
同じ色の巾着袋は品が良くて、鼻緒までが同じ色で統一されていた。


「こんな可愛い梨乃(りの)見たことないからさ」


腰に腕を回した彼が、彼女の頬にキスをした。


「っもう、人前だからダ〜メ!」


そう言いながらも手の指を絡ませ続ける。

バカップルにしか見えない二人を前に私は茫然としたまま眺めていた。



「もうすぐ彼女来るんでしょ?」


絡みついた指先を離しながらバラ柄の浴衣を着た女性が聞いた。


「彼女はあっちじゃないよ、梨乃が本命」


向こうは友達…と口づける。


「そんなこと言って、惚れこんじゃダメよ」
「それはないって」


笑い合いながら別れた二人。

そのやり取りを半信半疑で聞いていた。



(……どういうことなの?これは)



郁也とは今年の春、オフィスの花見会で知り合った。
席が隣同士になり、いろいろと話しているうちに意気投合した。




『今フリーなんだ。良かったら付き合おうよ』


軽めな男だとは思った。
でも、この年まで彼氏がいなかったもんだから……


< 3 / 209 >

この作品をシェア

pagetop