ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
「ふぅん。じゃあまだ引きずってるんだ」


ニヤッと口元が笑う。


「冗談!もう吹っ切ったよ!」


火曜日の朝、オフィスで郁也と出会った。
一瞬だけギクッとしたけど、すぐにスルーしてやった。


彼は何も言ってこなかった。
私達は付き合ってたわけじゃないんだと、その時しみじみ思った。



「そうか。それは何より」


私が郁弥を吹っ切ったことを喜んでる?
心なしか嬉しそうにしてない?



「…ねぇ、水族館へ行くの?」


話題をすり替えた。


「まぁな。最近魚類にハマってて」

「ふぅん」

「あんたもそうだろ?この間、あんなに金魚を追っかけてたんだから」

「えっ!?あれは違うよ」


あの金魚を追いかけてたのは自分みたいに思えたからで、金魚にハマってるわけじゃない。


「そうか。じゃ別んとこ行くか?」

「いいよ。ここで」


ビーサン返してすぐに帰るつもりだったんだからどこへ行こうと関係ない。
危険の少ない場所なら、この際どこだっていい。


エレベーターを出ると谷口は私を振り返った。
ぱちっと目が合い、じぃーとこっちを見てる。



「な…何よ」


さっきマジマジ見るなと人に言ってたでしょうが。


「今日も派手な格好だなぁ。しかもリップ赤過ぎる」


そう言われて思わず唇を隠す。

まさかメイクのことでとやかく言われるとは予想もしてなかった。


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