ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
「かか、勝手でしょ!」


顔が熱くなる。
男性に顔をマジマジ見られるなんて慣れてもない。


「そうだな。でも……」


伸びてきた指先が私の手を払い避けた。
ギクッとした瞬間、唇の上を指の腹が滑っていく。


「うん。これくらいの方がいい」


谷口の指先にルージュの赤がくっ付いてる。
その赤を眺めていると、指をズボンのポケットの中に突っ込んだ。


「信号青だぞ」


声に弾かれたように歩き出す。
横断歩道を渡る谷口の歩調が私のに合わされてる。



(おかしな人)


渡したい物があるならそれだけ渡せばいいのに、どうしてこんな所へ連れてくるんだ。


これじゃまるでデートみたい。
こっちにはその気ないのに何だか変な気分。



「ホタル」


ホタルとか言うし。


「何よ」


否定する気にもならないや。


「入館料払って。俺現金ねぇから」


「えっ!?何それ!?」


現金持たないでここへ来たの!?


唖然…と彼を見つめた。
サングラスを掛けた顔がどんな表情かはハッキリと見て取れないけど。


「早く」


窓口の人が困ってる。
後ろからぞくぞくお客さんはやって来るし、呆れてる場合じゃないか。


「おお、大人、二人分」


急だから吃った。


「2400円です」


高ーい!


「ははは、はい」


バッグから財布を取り出して払う。
こんなことならもっとお金を持ってくれば良かった。


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