ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
郁也の後ろ姿に近寄りながら、これまでのことを反省した。




「郁也くん」


かけた声が震えた。
郁也はくるりと振り返り、一瞬、あ…っと口を開ける。



「ケ、ケイちゃん…?」


瞼をバタつかせ、疑うような顔をした。


「どうしたの。スゴい気合い入ってるね」


呆れるように聞こえるのは、さっきの二人のやり取りが頭の中に残ってるせいだろうか。


「…キ、キレイだよ」


それ、心から言ってる?



「今の……誰?」


耳や頬にキスするなんて、どういう関係なんだ。


「えっ?何のこと?」


しらばっくれるにも程がある。


「さっき一緒にいた子。赤いバラ柄の浴衣着たボブスタイルの女の子」


キュッと唇を噛んだ。
じっと上目使いに見ていたら、郁也が「はっ…」と息を吐いた。



「見られてたのか」


あーあ…と声を漏らされた。



「バレてるんなら仕方ないか」


視線を横に流し、開き直った態度を見せられた。


「向こうが本命。ケイちゃんは場繋ぎみたいなもん」


悪びれる様子もなく言いのける。


「…いつから!?いつからあっちと付き合ってるの!?」


せめて、私よりも後であって欲しい。

なのに、郁也が言った言葉はーーー


「んー?ケイちゃんと同じ頃だったかな。取引先の花見会に誘われて参加したら、彼女の方から告られたんだ」


< 5 / 209 >

この作品をシェア

pagetop