ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
履いてた下駄を脱ぎ、郁也の顔めがけて投げつけた。


「わっ!」


手で避けようとするのも虚しく、下駄は郁也の額に直撃した。



「あんたなんか願い下げだっ!!」


かたペタ、かたペタ。

下駄と裸足を鳴らしながらダッシュでその場を逃げだす。


下駄なんか惜しくもない。
もう一方も投げつけてやれば良かった。




(バカバカッ!私の大バカ野郎!!)


男を見る目がなさ過ぎる。
誰でもいいから彼氏が欲しいなんて思ってたからこんなことになるんだ。



(自業自得だけど、あんまりヒドい!!)


裾が捲れようが、足の裏に痛みが走ろうが関係ない。

こんなの心の痛み比べたら、幾らでも我慢ができるってもんだ。


(ド派手な浴衣で悪かったわね!私だって最初から似合うと思ってないよっ!!)


この浴衣は友人の真綾に借りたもの。

美人で欧風な顔立ちをした彼女には似合ってても、奥二重であっさりした顔立ちの私には似合わない。

…でも、郁也に褒めてもらいたかった。
見違えるねと、きっと言われると妄想していた……。



(恥ずかしいっ!こんな浴衣早く脱ぎたいーー!!)



ヒック、グスッ、と悔し涙を零しながら石畳の続く道を進んだ。
逃げ出す方向を間違ったらしく、先には神社の社が見えている。



(もう…、どうでもいいや……)


お祭りに来たお客さんに紛れて歩き出した。
顔を上げることもできず、ただ俯いてばかりいた。


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