ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
働いてるんだから人事異動なんてあって当たり前じゃない。


「部長に理由を聞いたら副社長の判断だって言われた。俺には飛ばされる理由はない。ケイちゃんが何か言ったんじゃ……」


「バ…バカにしないでよっ!」


ぎゅっと手首を握ってる手に力を込めた。
ここまでバカにされる筋合い、私にはない!


「どうしてそういう貧弱な発想しかできないの!バカバカしい!ふざけんな!」


言い捨てて逃げ去った。
自分がアガリ症で仕事もできない人間だからって、こうまで侮辱される理由はない。


(許さない!二度と顔も見たくないっ!)


地方でもどこでも行っちゃえばいい!
あの子とも別れてしまえばいいんだ。


カフェテリアの近くまでダッシュしてから歩き始めた。
聖の顔を見ると泣き出しそうで、『やっぱりゴメン』とメッセージを送った。



『仕事長引きそう。また明日誘って』


泣きながら土下座するクマのスタンプを付けた。


『大変だね。じゃあまた明日!』


オッケーのスタンプが返ってくる。


ホッとしてオフィスの屋上を目指した。

外へ出ると、太陽はギラギラと照りつけてて暑いのに。



(……あったかい)


まるで谷口の手みたいだと感じた。
こんな時にもあの男のことを思うなんて、私はどうにもおかしい。



(変なの)


壁に凭れて涙した。
惨めな自分を変えたい…と、この時しみじみ思った。


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