ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
取り出したスマホをタップして、開いたメールアドレスを見つめる。

『Daisuke.T』の『T』は、轟の『T』なんだろうか。



(どっちなの…)


目線を上げて彷徨わせる。
ぼぅ…としてたもんだから近づいてくる人影に気づかなかった。




「ホタル」


声をかけられてそっちを見上げた。
目の前にいるのは、パリッとしたスーツを着てる男性。



(誰……?)


一瞬誰かわからなかった。
でも、目を見た瞬間気づいてーー



「た、谷口!…さん?」


辛うじてさん付け。
副社長かもしれないんだから丁寧にしておかないと。



「そう」


言葉短く答えた彼を無言のまま見つめてしまった。

髪の毛が垂れ下がってる。
いつもみたいなツンツン頭じゃない。
しかも、サングラスじゃなくて普通のメガネを掛けてる。



「あの……」


どうしてそんな格好で!?

…と言うより、どこかで会わなかった!?



「そんなにマジマジ見んなよ」


言葉遣いはいつも通りの谷口だ。
でも、話し方が怒ってるような時もあるって真綾が言ってた。



「だって、格好が……」


力が抜けていきそうになった。
その場に倒れ込みそう。


「仕方ねぇだろ。仕事の合間を縫ってきたんだから」


「仕事…?」


どんな…と聞いてもいいだろうか。
この人はやっぱり副社長ではないのか。




「…行こうか」


< 83 / 209 >

この作品をシェア

pagetop