ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
触れられないようにしてるのか、さっさと背中を向けて歩き出す。


「ま、待って!仕事ってどんなの!?」


遂に口にしてしまった。
弾かれるように振り向く谷口の顔にビクッと肩が上がる。


ゴクン、と唾を飲み込んだ。
口を開いた谷口の声に一生懸命耳を傾けた。


「そんなの聞いてどうする。どうだっていいだろ」


手短に答えておしまいにしようとする。



(……どうだっていい?)



よくないっ!



「ねぇ、谷口さん…っ!」


ちゃんと教えて。
貴方はオフィスの上司ですか!?
それとも……



「危なっ!」


駆け寄ってきた彼が私の腕を引き寄せた。


チリリリンッ!

ベル音を鳴らして通り過ぎてく自転車の影。



「無茶な運転するなぁ」


運転手を見て呟く。



(…ねぇ、私の問いに答えてよ)


心では言えても二度目は言えない。
肩を抱いたまま歩き出す彼に歩調を合わせるので精一杯。



「……どこへ行くの?」


隣を歩く人に問いかけた。


「アクアリウム見に行く」


「アクアリウム?」


聞いたことあるようで無い言葉だ。


「水槽の中に水草とか魚とかを入れて鑑賞するやつ。最近流行りで展覧会とかもやってんの」


「ふーん…」


そんなの興味もない。
でも、谷口はあるのか。


「この近くでやってると聞いて、ホタル誘って行こうかなと思ってたところだった」


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