ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
50代半ばを過ぎてる叔父は、こほん…と咳を一つして問いかけてきた。


「蛍ちゃんは付き合ってる男性はいるのかな」


叔父さん、それはセクハラじゃないの?


「ななな、何ですか。急に」


思いきり吃っちゃった。


「いや、ちょっと小耳に挟んでね」


言いにくそうに口ごもった。
もしかしたら叔父はオフィスの誰かに郁也と言い合ってたことを聞いたのかもしれない。



(誰もいないと思ってたんだけど……)


ふざけんなとか汚い言葉で罵ってるところを見てた人がいたのか。


「だ…誰とも付き合ってないです。けど」


谷口が副社長でなければね。


「……そうか。ならいいんだ」


なんだか知らないけど、その変な安堵の仕方は何。


「いや、引き止めて悪かった」


手を上げて去って行く。



「何なの。ホント」


叔父の背中に呟く。
郁也に罵声を浴びさせた日はかなりムカついてたから、周りのことなど視界に入ってなかったのはマズかった。


(気をつけないと)


これだからオフィスでラブは向いてない。
……かと言って、谷口が副社長だとすると困るけど。



(違っててよ)


エレベーターの階数を見上げて願う。
最上階で働く相手と恋なんて、庶民の私には難しい。


(真綾みたいな美人でもなければ、聖みたいな才女でもないし…)


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