愛と音の花束を


定演が終わって、次の土曜日の午後。
店に私ひとりになった時間。

三神君がやってきた。

「こんにちは」

「いらっしゃい、ま、せ……」

挨拶がしぼんでしまったのは、彼の後ろに女性がいたからだ。

彼が女性を連れてくるなんて! まさか!

賢そうな美人。

私の一瞬驚いた顔を見て、特別なものを読み取ったのだろう。彼女は、ペコリとお辞儀をしてくれた。

決まりだ。

この人が。

私は彼女に会釈を返し、三神君に向かって、

「コンマス、その方が、噂の彼女さんですか」

と言ってやった。“噂の”に若干のアクセントをつけて。

彼女がチラリと三神君を見やる。結構視線が鋭い。

三神君は気にせず、「そうです」としれっと答えた。

へぇ。なかなか面白い組み合わせ。

「お墓参り用の花束、お願いします」と三神君。

「かしこまりました。ご予算は?」

彼女が一緒ということは、いつもより奮発するつもりなのかなと思ってきいてみる。

彼女は外に出て行った。
重ね重ね賢い子。

三神君はやはりワンランク上の金額を提示してきた。


花束を作りながら、三神君に話しかける。

「素敵な彼女さんで、ご両親も喜んでるでしょうね」

「今日は結婚の報告をしてきます」

わぁ! 結婚!

「それはおめでとうございます。……でも、ご両親より前に私なんかにバラしてますけど」

「両親には、まずは仏壇で報告してますので。生きてる人への報告は、……あぁすみません、最初は背中を押してくれた僕の師匠にしてしまいました。永野さんは二番目です」

「……光栄です」

よかった。

幸せそうな彼を見て、本当によかったと思う。

三神さん、おめでとうございます。
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