愛と音の花束を
拍手の音が静まる。

那智は右手人差し指でAの鍵盤をポーンと鳴らし、椅子の位置を調整した。

何、その慣れた仕草……、

え……、と、いうことは……?

那智は、調弦を確かめ終わった三神君に目をやり、うなづき合うと、ピアノに向き直る。
そして背筋を伸ばし、指を鍵盤の上にかざした。


これか‼︎
那智が隠してたことって……!

ピアノ、弾くんだ……‼︎


でも、本当に大丈夫なの? 弾けるの?

ドキドキと不安が心の中に渦巻く。


フランクのヴァイオリンソナタ、第四楽章。

ひたすらヴァイオリンとピアノで追いかけっこをする曲だ。

まず、ピアノがヴァイオリンの先を走る。

ピアノの静かな4音に続き、ヴァイオリンが同じ旋律を被せて、曲が始まった。


……那智が、ピアノ弾いてる……。


しかも、ピアノに疎い私にさえわかる、かなりのレベルの高さ。

弾き方を見ただけで、年季が入ってることがわかる。
堂に行った姿勢はもとより、完全に鍵盤の位置を把握している腕、ペダルを踏む足。

そして、なめらかに動く指。

長い指が吸い付くように鍵盤に触れ、音を紡ぐ。

さらに、その音。

柔らかくて、透明。

弱音でも、音の粒がキラキラ輝いてる。

きれい……。
ピアノってこんなにきれいな音がするんだ。
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