愛と音の花束を

「わかっていればいいです。まだ序盤ですから」

「……優しいね」

……だって、パートリーダーとして、ここは気を遣うべき場面だから。それだけ。

「どうですか、1か月経ちますが、思っていたのと違いますか」

私が言うと、椎名は一瞬、切なそうに笑った。

でもそれはすぐにいつもの明るい笑顔に変わる。

「うーん、覚悟してはいたんだけど、楽器を思うように弾くっていうのは、難しいね」

–––––––作り笑いだ。

直感でそう思った。

30歳を過ぎて、能天気なだけの男なんて、いるはずない。

……そう思うと、心のどこかが、キシリとなった。

彼が内心落ち込んでいるのがわかったからだ。

言い訳しようと思えば、できるはず。
これ見よがしに落ち込んで、同情を誘うことだって、できるはず。

でも、彼はしなかった。

さっき一瞬見せた、切なげな表情が妙に引っかかって、何か言わなければ、と思った。

「まだ2年ですから仕方ありません。でも、2年にしてはしっかり弾けてる方だと思いますよ。これからが楽しみです」

それはお世辞抜きに私の本心だった。

「本当っ? やば、結花ちゃんに褒められるとか、期待されるとか、すっごくうれしい!」

椎名は一転、瞳をキラキラ輝かせ、満面の笑みを浮かべた。
作り笑いではない、心からの笑顔。

しまった。ほだされた。
私としたことが、奴が調子に乗るようなことを言ってしまった。

「いえ、先生が素晴らしいんでしょうね。見てみたいです。どんな教え方をする方なのか」

奴は大袈裟にズッコケるリアクションをとった。

「そっちか! ……でも、それは秘密」



< 41 / 340 >

この作品をシェア

pagetop