愛と音の花束を
「わかっていればいいです。まだ序盤ですから」
「……優しいね」
……だって、パートリーダーとして、ここは気を遣うべき場面だから。それだけ。
「どうですか、1か月経ちますが、思っていたのと違いますか」
私が言うと、椎名は一瞬、切なそうに笑った。
でもそれはすぐにいつもの明るい笑顔に変わる。
「うーん、覚悟してはいたんだけど、楽器を思うように弾くっていうのは、難しいね」
–––––––作り笑いだ。
直感でそう思った。
30歳を過ぎて、能天気なだけの男なんて、いるはずない。
……そう思うと、心のどこかが、キシリとなった。
彼が内心落ち込んでいるのがわかったからだ。
言い訳しようと思えば、できるはず。
これ見よがしに落ち込んで、同情を誘うことだって、できるはず。
でも、彼はしなかった。
さっき一瞬見せた、切なげな表情が妙に引っかかって、何か言わなければ、と思った。
「まだ2年ですから仕方ありません。でも、2年にしてはしっかり弾けてる方だと思いますよ。これからが楽しみです」
それはお世辞抜きに私の本心だった。
「本当っ? やば、結花ちゃんに褒められるとか、期待されるとか、すっごくうれしい!」
椎名は一転、瞳をキラキラ輝かせ、満面の笑みを浮かべた。
作り笑いではない、心からの笑顔。
しまった。ほだされた。
私としたことが、奴が調子に乗るようなことを言ってしまった。
「いえ、先生が素晴らしいんでしょうね。見てみたいです。どんな教え方をする方なのか」
奴は大袈裟にズッコケるリアクションをとった。
「そっちか! ……でも、それは秘密」