愛と音の花束を
オルガン付の全体練習後。
私は立ち上がり、後ろを向き、セカンドパートに向かって言う。
「第一楽章S〜Tが超重要箇所であることは最初にお伝えしました。今日から個人がどの程度弾けているか確認していきます」
第一楽章後半部分、ファーストとセカンドが掛け合う例の箇所、どうしてもセカンドが弱い。
リズムも音程も揃ってないので、モヤモヤして、非常に気持ち悪い。
そろそろ底上げが必要だということで、恒例の個人呼び出し。
みんなの間に、うわ〜来た、という空気が漂う。
ヤバイという顔をする人、目を逸らす人、弾けるもんねと涼しい顔の人、様々で面白い。
「椎名さんと飯田さん、少し残ってください」
指名されなかった人はほっとした顔で後片付けに動き出した。
椎名は隣の樋口さんから何やら言われて、うなづいている。
個人呼び出しは初めてだから、その説明でもされていたんだろう。
飯田さんは不満げに唇を尖らせている。
20代前半の若い女の子。
高校の弦楽部からヴァイオリンを始めたらしい。癖のある弾き方をするので、アドバイスが難しい子だ。