愛と音の花束を

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2月下旬の土曜日。
今日は、年に一回の、市民オケメンバーによるアンサンブルコンサート。
フルオーケストラではなく、有志で室内楽(少人数での合奏曲)をやる。入場無料。いわば発表会みたいなものだ。

私はここ数年演奏者として参加していないけれど、スタッフとしてお手伝いはする。

駐車場からホールへと向かっていると、「結花ちゃん、ストーップ!」と、後ろから声がした。
振り向くと、椎名が走ってくる。
今日は彼もスタッフとして参加することになっていた。

「おはよう! 荷物、持つよ!」

両手に提げていた、大きな紙袋を取り上げられた。

「花束? こんなにたくさん?」

中身を見て、首を傾げる椎名。

そう。紙袋、といっても、結婚式の引出物が入っていた大きくて丈夫なものに、様々な花束がぎっしり入っている。

これらの花束は、団員から注文いただいたもの。
演奏会では出演者への贈り物を受付に預けることができる。団員の知り合いがお客様として来場し、挨拶として贈るのが一般的だけど、団員から団員へ“お疲れ様・ありがとう”の意味を込めて贈ることもある。

贈り物は花束が圧倒的に多い。

ありがたいことに、私の店でお買い上げいただく人がいるので、事前に注文を受けておき、当日私が持ち込むことにしている。
おかげさまで結構な量になる。
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