桜の花びら、舞い降りた
香織の質問に、私ではうなずけなかった。
「さぁ……」
できることといえば、首を捻ることだけ。
俊さんの情報に確証はないからだ。
「だとしたら、どうやって元のところに戻るんだろうね」
「……ね」
「あ、でも、神隠しに遭ったってってことは、その人たちは戻れていないってことだよね。それじゃ圭吾さんも……」
“戻れない”
香織の言葉の続きは容易に想像できた。
そして私の心の中では、認めたくない嫌な思いが顔を覗かせた。
“戻れないほうがいい”
そんなひどいことを一瞬でも考えた自分が嫌になる。
ひどい人間だ。
圭吾さんは帰りたいだろうに。
邪な考えを振り払うように頭をブンブン振った。
「ちょっと亜子、大丈夫? どうしたの?」
キーホルダーを指先で弄んだまま、香織が固まる。
「ううん、なんでもない」
笑って誤魔化すほかに、私はなにもできなかった。