桜の花びら、舞い降りた
◇◇◇
「ねぇ、亜子、この花束どうしたの?」
私がお風呂からあがったタイミングで仕事から帰って来たお母さんは、リビングのテーブルに置いてある花瓶を指差した。
昨日は俊さんのところでカップラーメンを食べて帰ったから遅かったし、今朝は私が起きるより早くお母さんは仕事へ行ってしまった。
昨日の朝以来の顔合わせだったのだ。
「昨日もらったの」
「誰に?」
「遊園地で」
「遊園地?」
頭をタオルで拭きながら答えると、お母さんの顔が不審に曇った。
なにかよくないことを言われそうだと察知して、くるりと方向転換。
二階の部屋へ向かおうと背を向けた。
「あのアトリエの人と行ったの?」
きっと俊さんのことを言ってるんだろう。
「違うよ」
これは嘘じゃない。
背中を見せたまま答えた。
「ね、亜子、アトリエには――」
「俊さんはお母さんが思ってるような人じゃないから」
誰にどんな話を聞いたのかは知らないけど。
きっと、俊さんを見た目だけで判断しているに違いない。
大人はみんなそうだ。
だから俊さんも、外に出るときにニット帽を被るんだ。
本当なら、ありのままのあの頭でなんら問題がないはずなのに。
この前の夜、お母さんとアルバムを見たときに、ほんのちょっと距離が近づいたような気がしたけれど、それは気のせいだったのかもしれない。
再びムクムクと反発心が芽生えた。