桜の花びら、舞い降りた

音のない静かな世界。
それはまるで、圭吾さんとふたりだけのようにすら思えた。

神様、どうかお願い。
このまま圭吾さんと私を、この雪で閉ざされた世界に閉じ込めてください。
私の元から彼を連れ去らないでください。

圭吾さんの唇がゆっくりと開く。

なにか言いそうな気配に息を止める。
お願い、言わないで。
分かってる。
圭吾さんが美由紀さんだけを愛してるということは。
私に向ける目は、私自身じゃなくて美由紀さんへ向いているんだと。

なにより、圭吾さんは過去の人間で、ここにいるべき存在じゃない。
明日、元の世界に戻らなくてはならないのだ。


「亜子ちゃん――」

「ごめんね。いろいろと困らせて」


彼の言葉を遮る。
圭吾さんは首を横に振ると、私の頭に積もった雪をそっと払った。
そしてこう言った。


「この雪が溶ける頃……そうだな、スノードロップが春を告げる頃、会う約束をしよう」

「……え?」


なんのことを言っているのかと首を傾げる。

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