桜の花びら、舞い降りた
そう言いながら、私は橋の欄干から下を覗いてみた。
「……あ」
「なんだ? どうした?」
圭吾さんと俊さんも私に続いて、欄干から顔を出した。
それは、不思議な光景だった。
白というよりは、グレーに近い色の霧。
ここからだと川が透けて見えない程の濃い霧。
それが、川全体を覆うように漂っている。
それはまるで、なにかを受け入れるのを待っているかのような不気味な光景だった。
私は思わず息を呑んだ。
三人とも口をつぐんだまま、その霧を見つめる。
あれがそうなの?
あれが圭吾さんを過去に引き戻す霧?
本当にここから飛び込んで大丈夫なの?
言いようのない不安に包み込まれる。
「圭吾さん、……ここから飛ぶんだよね?」
下を見たままの圭吾さんに声を掛けた。
彼が顔を上げる。
そして、一瞬考えるような素振りを見せたあと、大きくうなずいた。
全てを決意している真っ直ぐな目だった。
圭吾さんを帰したくないと少しでも思う自分が恥ずかしくなって、私は目を逸らしてしまった。