桜の花びら、舞い降りた
「亜子ちゃん、いろいろとありがとう。この橋で会ったのが亜子ちゃんで本当によかったよ」
優しく微笑む圭吾さん。
胸の奥がひどく熱い。
俊さんとしたように、圭吾さんが私をそっと抱き寄せた。
彼の香りがいっそう私を切なくさせる。
この香りと温もりを忘れないよう、私は目を閉じた。
そして、圭吾さんは私をゆっくり引き離すと、右手を差し出した。
圭吾さんの大きな手。
この手に包まれると、いつも温かい気持ちになって安心した。
「圭吾さん、必ず生きてね。美由紀さんと心中だなんて、もう考えないでね」
「約束するよ。亜子ちゃんこそ、あの神社で会う約束、忘れるなよ。四月十六日だぞ」
圭吾さんの手が強く私の手を握った。
とうとうその時だ。
この手が離れれば、圭吾さんとはもう……。
最後に一度きつく結ばれた後、静かに圭吾さんの手が離れた。
彼が橋の欄干に足を掛ける。
「それじゃ、また」
“また”。
その言葉は、再会を暗示させるように圭吾さんの口から強く言い放たれた。