桜の花びら、舞い降りた
彼はにっこり微笑むと、私たちの視界から消えた。
急いで下を覗く。
圭吾さんを呑み込んだ霧がいっそう濃くなっているように感じる。
「圭吾さーん!」
「圭吾くーん!」
私たちの声が川に向かって転がるように響く。
耳を済ましてみても、川に人が落ちたような音はしなかった。
圭吾さんは、消えたのだ。
「俊さん、あれ見て」
不思議なことに、川一面にたちこめていた霧がすーっと消えていく。
そして、あっという間に川面まで見通しがきくほど綺麗に晴れてしまった。
俊さんも私も力が抜けて、冷たいアスファルトに座り込み、しばらくの間、川のずっと先を無言で眺めた。