オレンジの雫
彼は、慌てふためいた様子で、セシーリアの肩を抱くと、大きなオレンジの木の下へと駆け込んだ。
その根元にセシーリアを座らせると、激しい雨から彼女を庇うように、眼前に両膝を着き、僅かに体を前傾させたのである。
通り雨が、深緑色に色付くオレンジの葉を揺らし、たわわに実った果実から、トパーズのような雫を地面に滴らせた。
湿った土の匂い…
どこか困ったように、黒真珠の瞳を細めながら、彼は、薄い唇で小さく笑った。
セシーリアは、濡れて頬に張り付いた髪を払うでもなく、ただ、呆然として、小麦色に焼けた彼の端正な顔を見つめた。
見知らぬ異国の青年。
彼女の瞳を捉えて離さない、無邪気に澄んだ黒真珠の瞳。
引き締まったその胸元に、濡れたシャツが張き、少し長めの黒い髪からは、止めどなく透明な雫が滴り落ちていた。
「大丈夫ですか?」
彼のその顔立ちは、アラブ人にしては少し彫りが浅いようだ。
それに、話す言葉に、独特の訛りもない。
しかし、少しあさ黒い肌と黒い髪と瞳は、やはり、アラブの民のものだ…
「あ…貴方、フランス語が…上手ね?でも、私、フランス語、あまりよくわからないの…」
その根元にセシーリアを座らせると、激しい雨から彼女を庇うように、眼前に両膝を着き、僅かに体を前傾させたのである。
通り雨が、深緑色に色付くオレンジの葉を揺らし、たわわに実った果実から、トパーズのような雫を地面に滴らせた。
湿った土の匂い…
どこか困ったように、黒真珠の瞳を細めながら、彼は、薄い唇で小さく笑った。
セシーリアは、濡れて頬に張り付いた髪を払うでもなく、ただ、呆然として、小麦色に焼けた彼の端正な顔を見つめた。
見知らぬ異国の青年。
彼女の瞳を捉えて離さない、無邪気に澄んだ黒真珠の瞳。
引き締まったその胸元に、濡れたシャツが張き、少し長めの黒い髪からは、止めどなく透明な雫が滴り落ちていた。
「大丈夫ですか?」
彼のその顔立ちは、アラブ人にしては少し彫りが浅いようだ。
それに、話す言葉に、独特の訛りもない。
しかし、少しあさ黒い肌と黒い髪と瞳は、やはり、アラブの民のものだ…
「あ…貴方、フランス語が…上手ね?でも、私、フランス語、あまりよくわからないの…」