オレンジの雫
「……それは…どういう…意味?」

「…雨の中で…あなたを見た時…心臓が…潰れるかと思った…。連れていけるものなら…連れて帰りたい…でも、僕には、あなたを幸せに出来るだけの…地位も名誉も財産もない…」

「そんなもの…私はいらない!あなたが側にいるだけで…」

その言葉に、彼は悲しそうに首を横に振った。

そんな彼を、彼女はすがるような瞳で見つめすえる。

涼しやかな音を立てて、オレンジの葉が揺れている。
地中海からの乾いた風が、月の光とセシーリアの柔らかな髪を揺らした。

彼は、彼女の水色の瞳を真っ直ぐに見つめながら、静かな口調で言うのだった。

「…もし、あなたが望むなら…いつか、あなたを幸せにできるだけの全てを持って…あなたを迎えにきます…それまで、待っていてくれますか?」

セシーリアは、一片の迷いもなく、大きく頷いた。
彼は、そんな彼女の体をそっと自分の胸に引き寄せると、その存在を確かめるように強く抱き締めたのである。

惹かれあうように重なる唇。

芳しいオレンジが実る季節…

雷のように高鳴る鼓動を胸の奥に秘めて、彼女は、彼の体のぬくもりを、ただ静かにその胸に刻み付けていた…


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