オレンジの雫
「ジェレミヤ…私も…モロッコに…連れていって…と言ったら…連れて行ってくれる?」

その言葉に、ジェレミヤは、黒い瞳を大きく見開いて、ひどく驚いたようにまじまじと彼女の顔を見つめすえたのだった。

「…突然、何を言い出すのです?貴女は、この大きな農場主の娘だ…いくら貴女の頼みでも、それは…できません」

困ったように眉根を寄せながらも、どこか寂しそうな声色で彼はそう答える。

そんな彼に、彼女はひどく悲しそうな顔をしながら、きゅっとその唇を噛締めたのだった。

「……ねぇ…私が農場主の娘だから、あなたは毎晩こうして…私に会ってくれていたの?」

「それは違います!」

彼は、慌てた様子で彼女の細い肩を掴むと、漆黒の髪を揺らして大きく横に首を振る。

切なさを隠し切れないセシーリアの瞳を、真っ直ぐに見つめる黒真珠の瞳。

余りにも純粋で実直なその眼差しに吸い込まれそうになって、セシーリアは、海に漂うような軽く甘い目眩を覚えた。

この青年は、彼女にとって、とても不思議な青年だった…

何故これほど彼に惹かれるのか、彼女自身わからない…

でも彼は、今まで彼女に言い寄って来た男達とは明らかに違う、全く異質な存在だった。

思い余ったように、彼女は、彼の手を握り返すと、前髪の下で苦しそうに眉間を寄せて、絞り出すような声で言うのだった。

「じゃあ、どうして、こうして会ってくれていたの?」

「…それは…」

「……」

「…あなたが…余りにも美しかったから…」

その言葉にハッとして、一瞬だけ押し黙ると、彼女は、綺麗なその唇で小さく微笑したのである。

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