堕天使と呼ばれる女
その頃、噂のポチくんは…


「おまえさ…
 何を血迷って聖羅んとこ駆け込んだんだよ?」

ジャックに詰め寄られていた。

手足に『目で見える』枷は無いものの、空間のど真ん中に椅子に座らされ、四方八方から好奇の目に晒されている。


実際、目に見えないだけで、誰かが椅子を中心に強烈な重力がかけられていて、通常の人間では呼吸すらままならないレベルだ…


和也も、じっとりと嫌な汗をかきはじめていた。


「まあ、聖羅が拾った以上、仕方が無いんじゃない?」


そう辛うじてフォローを入れてくれたのは、クィーンと呼ばれる女性。
この女性、スミレさんと同じくらいの年齢に見える…。


[とりあえず、聖羅から頼まれたターゲットの情報が知りたいんだが…

 あとで、『まだ調べてない』なんて答えたら、こっちの身が危ない…]


と、頭に直接声が響いてきた。

『何でしゃべらないんだ?』


[今、おまえの質問に、いちいち答えている暇は無い]


ちょっと疑問に思っただけなのに、ガツンと低い唸り声が返ってきた。

まるで、頭を鈍器で殴られたかのように痛い…


「とりあえず、エースの機嫌がこれ以上悪くなる前に、君はターゲットを明かしなさい。
 遠藤和也くん。」


招かれざる訪問者である和也が、どこの誰だか名乗らなくても、ここに居る人たちはみんな承知済みなのだ…


そして、和也が組織の中で見、知っていると思っていたのは、組織のほんの一部分でしかなかったのだということを、今、この椅子に座って再確認していた。


この組織、そしてここにいる人たち…

人生経験って言葉だけでは表現しきれない何かを持ってる…


『じゃ、私は帰るね~』


…と、ついさっきルンルンで帰っていったスミレの存在が、懐かしいとさえ感じる程、この空間には和也が味わった事の無い空気が漂っていた。
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