空を祈る紙ヒコーキ
「つらくても、納得できないことばかりでも、涼は前に進んだ。なのに俺は臆病なままだ」
「臆病な人が自分のバンドの演奏を動画サイトに載せようなんて言わないと思うけど」
「あれは涼と愛大がメインだから。俺は背景」
「背景って。部長なんだからもっとカッコイイこと言ってよ」
何かを言おうとしている。それだけは分かったけど、その奥にある空の気持ちまでは見えてこなかった。
「涼がバンドのために書いてくれた詩で、今でも心に残ってるフレーズがあるんだ。《超えてはいけない扉をあなたの手で壊してほしい》」
「!!」
強い緊張感で胸が満ちた。体が震えてきそう。それは空のことを考えて作った恋愛の詩の一部。
超えてはいけない扉。それは私達の兄妹関係。家族の在り方。壊してほしいのは空が決めたルール。俺を好きになるなと言ったあの日をなかったことにしてほしかった。そしたら私はもう少しだけ勇気を出せるかもしれないから。
実際には伝えられない気持ちを詩にして歌うことでけっこう満足していた。伝えられないもどかしさは書くことで軽くなった。好きな気持ちを全面に出さなくても普通に過ごせるのは歌っているおかげ。
「あれって恋の歌だよな。誰のこと想って書いたの?」
「想像だよ、想像! 経験なんかないしあったとしても書くわけないよ恥ずかしいしっ」
スラスラと嘘が並び早口になる。空の瞳は私の本音をこぼさず拾い上げるように私を射抜いた。
「恋愛はしないって言ってたのに?」