空を祈る紙ヒコーキ
そうだ。空より誰より、私が一番よく覚えているセリフだ。恋愛や結婚をせず一人で生きると決めたし空にもそう言った。嘘じゃない。本気でそう考えていた。ああいう気持ちでいた頃のことは今でもはっきり思い出せる。それなのに今では遠い記憶だった。
「想像だけでああいうの書ける? 俺らとカラオケ行くようになるまで流行りの曲をひとつも知らなかった涼が?」
「うるさいなっ。経験なくても現代文や音楽の授業受けてれば詩に込める感情くらい補完できるよ!」
どうしても経験で書いた詩だと認めたくなかった。認めたらこの気持ちもばれてしまう。拒絶されるのがこわい。空に嫌われたくない。
「経験で書いたこと否定するための言い訳みたい」
「は!? 違うし! 決めつけないでよ」
嫌な感じで体が熱くなってくる。私のことを馬鹿にするみたいに空は意地悪な顔をした。
「涼、偉そうに言ってたけどさ。恋せず一人で生きていくなんてやっぱり無理だったな」
空じゃないみたい。こんなひどいことを言う空を初めて見た。人気の多い公園で木登りをして紙ヒコーキを飛ばすような変わったところもあるけどいつも優しく頼もしかったのに、どうして?
動揺と同じくらい悲しみと苛立ちが足元から心臓に向かって這い上がってくる。
「……何で空にそこまで言われなきゃいけないの? それでバンド活動やれてるんだからそれでいいじゃん。空だってありがとって言ってたし愛大も喜んでくれてた。なのに何でケチつけられなきゃいけないわけ?」