空を祈る紙ヒコーキ

 秋が訪れる頃、気持ちは穏やかだった。先日初めて行った今の家族との初旅行で紅葉の綺麗な山々が見える旅館に泊まった。宝来と食べたキノコ狩りでのキノコ料理の味を思い出し切なくなった。死んでも人は生き続けるとはこういうことを言うんだなと実感した。

 俺は欲深い人間だから、これからも懲りずに絶え間なく何かを願って紙ヒコーキを飛ばすだろう。

 その時、大切な人がそばで笑っていますように。涼は俺の、俺は涼の、宝物だから。


 大切なものは消そうと思って消せるものじゃなく、いつの間にか心の中に存在している。

 涼や愛大と音楽活動するようになって改めて俺はそのことを再認識した。いや、再認識ではない。元から分かっていたことだ。認めようとしなかっただけ。


 どれだけ時間がかかってもいい。俺の中から削り落ちてしまったものを補いながら生きていきたい。涼の中の空洞を満たしてあげたい。愛大の背中を押し続けていたい。

 そのための言動がこれから先の生きがいになる。そんな予感で胸が健やかに鼓動した。









【完】

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