空を祈る紙ヒコーキ
暁の気配が扉の向こうに消えると、空は意気揚々とキッチンで何かをしはじめた。
「何してんの?」
「軽く何か作るの。食べ足りないし」
「そうなの?」
「食べ盛りなので。あ、暁君にはヒミツな?」
ヒミツ。そう言う空はどこか楽しげで、こっちまでつられて笑ってしまう。
「うん。言わない」
家の中で、お母さんや暁以外の人と同じ時間を共有する。今でもまだ現実味がないし不思議だった。
何より意外だったのは、空といるのが楽しいと思ってしまったこと。そんな風に思う自分に驚いた。
家がこんなに楽しい場所だと知らなかった。息苦しくて不都合な場所でしかないと思っていた。大人になったら出て行きたいと考えてしまうくらいに。
空が手早く作ってくれたオムレツを口に入れると浮かれた声が出た。
「おいしいっ! ふわっふわ!」
「だろ? コツ掴めばすぐできる」
「すごい……!」
料理関係の仕事をしている夏原さんの影響を受けて上手くなったのかもしれない。
久しぶりだった。こんなに素直な気持ちで人のそばにいられたのは。自分にもまだこんなに何かを褒める気持ちが残っていたんだ。最近の私は自分より下を作って陰湿に叩くばかりだったから。
「うまいならよかった」
空は照れ笑いしながら自分のオムレツを焼き始めた。