拗らせ女子に 王子様の口づけを

その週の週末、午後から三嶋課長と共に出た打ち合わせで、予想外に時間がかかって会社に戻れたのは定時をとっくに過ぎ、辺りも暗くなった頃だった。

「19時半か」

駐車場に車を止め、隣の三嶋課長に目をやると携帯をいじりながら考え込んでいる。

「遅くなってしまってすみません。時間、大丈夫でしたか?」

「いや、今日は部内の送別会だったんだよ。悪いが見積り明日で良いか?顔だけ出したいんだ」

あぁ、そういえば濱本主任に移動になってたな。

「大丈夫です」

「悪いな。そうだ、お前も来るか?濱本のこと知ってるだろ?」

濱本主任は俺の5つ上の先輩で、入社当時の新人研修でお世話になった人だった。
こっちに戻ってからも久しぶりに会ったのに覚えていてくれたんだよな。

…………、設計の送別会か。
沙織もいるだろう。

会いたい気持ちと、会えないと思う気持ち。

それでも、会わないという選択肢はなかった。
帰り道は大丈夫だろうか。


「………………、ありがとうございます。一緒に顔ださせてもらっていいですか?」


ごちゃごちゃと余計なことを考えて開いてしまった沙織との距離に、後悔しかなくて。

何を思うよりも限界だった。

やっと会えるようになったのに、

離れて寂しくさせたぶん思いっきり甘やかしてあげたいのに、

やっと手の届く場所にいる沙織に何も出来ない。



ただ、沙織に会いたかった。
兄貴なら、会いたいと思うことは当たり前の感情だろ?
< 140 / 162 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop