拗らせ女子に 王子様の口づけを

終業後三矢と揃えて仕事を終え、並んで会社を出た。
じめっとし、独特の梅雨の空気が体にまとわりつく。

「明日、雨かなぁ……梅雨って嫌いなんだよねーアホ毛出るし」
「アホ毛?」
「うん。あのさ、髪がふわふわして静電気で逆立ったみたいな毛のこと」
「あぁ。お前の髪やらかそうだもんな」


会話の流れで歩きながら三矢が私の頭を撫でて、そのまま髪を触る。

「こーゆうの猫っ毛って言うの?」

するりと一束すくいとり、指先ですくように髪に手を入れた。

「うん。そう、柔らかすぎて腰がないんだよね。パーマかけてもすぐ取れちゃうし」
「ふーん。気持ちいいけどな」
「そう?」


髪から手を離し、そのまま歩き続けた。
話題も梅雨から髪へと、そして今から行くお店の話へ変わる。

定時を過ぎてさほどたってない間に会社を出てきているから時間はまだ18時を過ぎたくらいだ。
辺りはまだ明るい。

とりあえず駅に向かって歩いていた。
駅近くは帰る人も、まだ仕事中の人も多く、明るいといえどもこの人混みのなか誰かと出会うなんて待ち合わせでもしていなければ見つからない。

なのに、そんな人混みの中でも私の目は奏ちゃんを見つけるんだ。

視界の端にうつった奏ちゃんはロータリーの近くで彼女といた。
楽しそうに秦野さんの頭をこずいて秦野さんから何かを受けとる。
片手を前で拝むように出し、お礼でも言っているのだろうか、小さく頭を下げていた。

突然歩くのを止めた私に気付いた三矢が疑うように私の視線の先を確認したんだろう。
「……野々宮さん」と、小さく呟いた。
ビクリと肩を上げ、少しの間をとって頭を左右に振り、三矢の肩を軽く叩いた。

「三矢、行こう?」
「……いいのか?」
「………………うん」
「分かった」

立ち止まって三矢に向き合い、身長差から見上げるような格好で、もう一度「行こう?」と笑った。
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