知らない彼が襲いにきます

「私、お嫁に行くことになったの。相手はここから馬車で十時間離れたところに住む、子爵様よ。だから、もうあなたと会うことはできないわ」



私の話を、彼は神妙な面持ちで聞いている。


さよならを言ったらそれで終わりにするはずだったのに、心配そうに私を見つめる彼の顔を見たとたん、自分の本音が堰を切ったようにあふれだしてきたのを感じた。



「子爵様は私より四十近く年上なの、私は彼のことを知らないし、好きでもないわ、でもね、彼と結婚しないとこの領地を借金のために返還することになるの、そうしたら優しい領民たちはここを追われてしまうから」



違う、私が言いたかったのはこんなことじゃない。


私の心の中に開いてしまった穴は、こんなことが原因じゃない。


エヴァンに会えない、それが何よりも辛いのだ。