知らない彼が襲いにきます
結婚前夜は、くしくも土曜だった。


私は窓の外から見える星空をぼんやりと眺める。


――淫魔に、さよならを言わなければ。


別に彼のことが好きなわけではないし、なにか特別な思いを抱いているわけでもない。


しかし、私をあんなにも愛情のこもった目で見つめる彼に、しっかりとお別れをしなければいけないと、そう思ったのだ。



「こんばんは」



窓から顔をのぞかせた彼に、私はいつもどおり挨拶をした。


彼は深々と頭を下げ、部屋の中へ入ってきた。



「あのね、今晩はおあずけよ。あなたに話さなければいけないことがあるの」



そう切り出す私の喉は、目の奥はひどく熱い。


まるで、涙がこぼれる直前のように。


どうしてだろうか、彼に対しては何の感情も抱いていないはずなのに。


私は鼻をすすった。
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