クールな御曹司と愛され政略結婚
外は変わらずしんと静まった、消滅寸前の街並みだったけれど、来たときほど不気味さを感じないのは、たぶん私の心に余裕がないせいだ。

どんなに歩くスピードを上げても、脚の長い灯は平然とついてくる。

情けなくなって、早足をやめた。



「…ごめんね、話の邪魔して」

「さっきから、なんだ。悪くもないことで謝るな」



もう、頭の中がぐちゃぐちゃだ。

うつむいて、顔を覆って、整理しようとしたら、自然と足も止まった。


あのね、灯。

謝るのは、謝ってほしいと思っているからかもしれないよ。



「唯?」

「お姉ちゃん、変わってなかったね」

「あの口ぶりだと、また行方くらます気かもな。相変わらず振り回してくれるよな、要子は」



私、灯に"唯"って呼ばれるの、好きなの。

甘やかされている気がして、ちょっと特別扱いされているようでもあって。


でも例外がある。

同時に灯が、姉を"要子"と呼ぶとき。

灯にとって、私はあくまで妹で、対等に、女として見ているのは姉のほうなんだと思い知らされるから。



「いつ連絡来たの、お姉ちゃんから」

「今日だ。夕食の後くらいに」

「どうしてそのときすぐに、教えてくれなかったの」



灯が言葉に詰まった。

そのことが私を不安にした。


隠す気はないって言ってくれたのは嬉しかったよ。

でももしかしたら、姉と会って、その話の流れた方向によっては、私に言わずに済まそうと思っていたんじゃないの?

だから事前には、教えてくれなかったんじゃないの?


あのバーでの私たちを見て、いったい誰が、私と灯を夫婦だと思うだろう。

どう考えたって、対になっていたのは灯と姉だった。

こんな棚ぼたの、補欠合格の結婚で築いた関係なんて、ちょっとバランスが乱れただけで、あっさり崩れ去る。
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