クールな御曹司と愛され政略結婚
涙をこらえているせいで、ふてくされたしかめ面になっている私を、灯が困り顔で見下ろす。



「なにが言いたいんだよ、唯…」

「もしお姉ちゃんが、昔の関係に戻ろうって言ってきてたら、どうした?」

「昔の関係って」

「私、ずっと前にも一度、聞いたよね」



ぐいと向こうの胸を押すと、灯が半歩、後ろによろけた。

白いシャツは、灯の素肌と同じ温度になっている。



「灯は、お姉ちゃんとつきあってたよね?」



灯の視線が揺れた。

なにか言おうとする様子を見せて、一度飲み込む。

それでも、前よりはちゃんと答える姿勢を見せてくれた。



「つきあってたって言葉は、少なくとも俺の認識としては、正しくない」

「なにそれ」

「要子は…別に、俺だけじゃなかったし」



なにそれ。

はっきり言ってよ。

私が聞かなきゃならないの?

要するに、お姉ちゃんと寝てたんだよね、って?


口にしたくもないよ、そんなの。

でもそれは灯も同じらしく、お互い続ける言葉を見つけられずに、私たちは視線を絡ませたまま黙った。



「それはルール違反だ、唯子」



突然、思いもしない声が話しかけてきた。

はっと来たほうを振り返れば、姉が立っている。

なんで、という私たちの問いかけより先に、姉は顔の前で灯のジッポを揺らしてみせ、前置きもなく、そこそこの勢いで投げた。

灯がそれを、片手でキャッチする。
< 102 / 191 >

この作品をシェア

pagetop