クールな御曹司と愛され政略結婚
「ここ来たときも、部屋の予約がゼロだらけで、うわーって思った」

「あそこ、新人ばかり使ってるって噂、本当なんですかね。確かに来たエディターも全然知らない人で、場慣れもしてないし。でも堂々と監督と渡り合って、結局仕上がりとか、すごくいいんですよ」

「ねえ灯さん、今日出たゼロのweb記事、読みました?」



仮編集作業を終え、試写のためにクライアントの到着を待っている中、灯はスタジオの中央にあるソファでPCを開き、じっと画面を見つめている。

「灯さんてば」と再度呼ばれてようやく気づき、「ん」と顔を上げた。



「悪い、なんだ?」

「ゼロの記事です、読みました? ってそういえば、ゼロの社長と知り合いだったってほんとですか」

「よく知ってるな」

「狭い業界ですからね、どこからか回ってくるんですよ、噂って」

「ちなみに、その記事に出てたほうじゃない奴な」

「ダブル社長って本当だったんですね、そんなんで方針とか、決まるんですかね?」

「まあ、本人たちがやりやすいんなら、それがベストなんだろ」

「灯さんたちも、ダブルプロデューサーですもんね」



明るく笑って、灯の正面のソファに座っていた私と灯を指さす。

灯はちらっと私を見て、場を冷やさない程度に微笑み、「まあな」と言った。


昨日は、実家から戻ってもマンションに灯はいなくて、私がベッドに入ってから帰ってきた。

朝も時間が合わず、会話らしい会話をなにひとつしていない。


震えを隠すため、唇の内側を噛んだ。

ねえ灯、どうしちゃったの。


私は、どうすればいいの…。


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