クールな御曹司と愛され政略結婚
満足のいく提案を手にして、クライアントも肩の荷が下りたのだろう、全員が表情を和らげて、遅ればせながらの拍手をくれる。



「ビーコンさんに勝てる見込みがないとのことで」

「そうなんですか…」

「御社とお仕事ができて、こちらも嬉しく思います、すぐに具体的な打ち合わせに入りましょう」



雑談を始めるクライアントたちを呆然と見る灯の心の中に、"だったら先にそう言え""くそったれ"という言葉が去来しているのを感じたので、それが口から出てしまわないうちに、袖を引っ張って座らせた。

ぽんぽんとその腕を叩く。

糸が切れたようにぼんやりしていたのが、ふっとこちらを見て、声すら出ない疲労の中、緊張から解かれた顔を微笑ませる。

「やったね」と声をかけると、複雑そうな顔でうなずいた。





「やあ、お疲れさま」



ビルの前で、柘植さんを含めた残りのメンバーと別れると、少し行ったところに信じられない姿があった。

灯がどさりとバッグを落とす。



「ビーコンさんがどんな提案したのか、後で教えてね」

「海堂…てめえ、教えてねじゃねーよ、顔貸せおい」

「殴らないで、殴らないで、コンペのメンバーを引き抜いたのは悪かったよ、でもあれは俺じゃない。俺も知らなかったんだ」

「なんだって?」



熊みたいな勢いで掴みかかった灯が、締め上げていた喉元を少し緩めた。

一樹先輩が苦しげに咳込んで、降参のしるしに両手を挙げる。



「うちでは俺のほかにも、スカウトの権利を持ってる奴がいる。そいつが逸ったんだ。俺ならコンペで戦うほうを選んだよ。俺の管理不足だ、申し訳なかった」



こんなところで嘘をつく人でもない。

それがわかったのだろう、怪訝そうにしながらも、灯が先輩から手を離す。



「だから棄権させてもらったんだよ、痛み分けってことで許してよ」

「カメラやプランナーも引き入れることにしたのか」

「大手と仕事する上ではね。うちも人材の底上げが課題で」
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