クールな御曹司と愛され政略結婚
「それね、イタリアの革職人が作ってる一点ものだから、かぶらないよ」

「めちゃくちゃいい革だな、これ」

「長く使ってね」

「ずっと使う、サンキュ」



言いながら、さっそく今の財布をスラックスのポケットから出し、中身を入れ替えはじめたので、驚きつつも嬉しくて笑ってしまった。

灯の財布の中身がシンプルなのにもまた驚かされる。



「小銭、持ってないの?」

「邪魔だから、定期的に募金箱とかに入れることにしてる」



お札と免許証と数枚のカードしか入っていない。

よし、と灯が空っぽになった財布を脇によけ、あげたばかりのほうをポケットにしまった。

今まで使っていたのも、イタリアンブランドのかなりいいものだ。



「木場くん、相当な棚ぼただねえ」

「木場の話は後でいい。はいこれ、俺からも」



どこから出したのか、灯がぽんとターコイズブルーの箱をテーブルに置いた。

私はきょとんとしてしまい、見つめるばかりで手も伸ばせずにいた。

灯がばつの悪そうな声を出す。



「受け取れよ」

「えっ、あの、ありがとう、なんで?」



戸惑いながらも、リボンをほどき、ビロード張りの小箱を取り出して、ふたを開ける。

中に入っていたのは、プラチナのペンダントだった。

時計の文字盤みたいな、リング状のペンダントトップが、シンプルながらも存在感があって、年齢も場所も選ばずつけられそう。


さすが灯のセンスだなあと感心しつつ、でもなんで灯の誕生日なのに、私がもらってるの? と改めて首をひねった。

背もたれに背中を預けた灯が、私の疑問を見てとって、ちょっと微笑んだ。



「俺たち、この結婚をするにあたって、なにもやってないだろ、結納だって適当だったし、婚約指輪だって買わなかった」

「だって、どうせすぐに使わなくなると思って」

「まあな」
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