クールな御曹司と愛され政略結婚
「足りないって…」

「まだ言われてない」

「なにを?」

「信じてるって」



灯が私の手首に視線を落として、手触りを確かめるみたいに、握った指の腹でなでる。



「この間、親父たちの前で、唯に叱りつけられたろ」

「叱りつけたわけじゃ…」

「あのときさ、ああ俺、きっと一生こうなんだろうなって、普段いばらせてもらってるけど、肝心なところで唯には頭上がらないんだなって、そういう未来みたいの、見えた気がして、それがまた楽しくてさ」



言いながら、本当に楽しそうに、穏やかに口元を微笑ませている。

その目が、ふと手首から離れて私の顔を見た。



「唯もそういうの、あるのかなって」



手が震えてきたのを、灯はきっともう、感じ取っているだろう。

信じてる、と言えない理由があるのを、気づいているだろう。


ここで言っていいのかわからない。

せっかく灯がくれた、いろんなものを、全部台無しにしてしまうかもしれない。


怖い。

怖い。



「…お姉ちゃんを」

「要子?」



ぎゅっと手の中の小箱を握りしめた。

それに反応してか、安心させるように灯が、手首を握る手に力をこめる。



「灯は、お姉ちゃんを、好きだよね」



緑がかった、明るい水色の箱を見つめながら言った。



「少なくとも、昔は好きだったよね」
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