クールな御曹司と愛され政略結婚
実際声に出してみると、私の中でその事実がどれほど重かったか実感して、一瞬で涙が込み上げてきて、うつむいた。

まばたきするまでもなく、テーブルクロスにしずくが散る。



「…わ、私のこと大事にしてくれてるのも、好きでいてくれてるのも感じる。だけどどうしても、そのことが頭を離れないの。ほんとなら灯は、お姉ちゃんと結婚できてたはずなのに」



誰に謝っているのかわからないまま「ごめんなさい」とつぶやいた。


信じられなくてごめんなさい。

私でごめんなさい。

ずっとずっと言いたくて、言えなかった。

だって今が幸せだったから。


片手で顔を覆うようにして、次から次に溢れる涙を灯から隠した。

もう一方の手は、灯に取られたまま。

さすがに顔がびしょびしょになってきたので、ナプキンで拭こうと膝の上を手で探り、そういえば灯の反応がないなと思い当たる。


こわごわ目を上げると、灯はまさに、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

おかげでこちらも面食らってしまう。



「灯?」



ナプキンで目鼻を拭いながら、握られた手を揺らした。

灯ははっと動きだし、何度かまばたきをすると「ええと」と言ってから、また黙り込んで、上やら下やらを見ている。



「どうしたの」

「こっちの台詞だ。俺が要子を、なんだって?」

「…好きだったよねって」



何度も言わせないでよ、つらいんだから。

灯は片手を額に当てて、難しい顔でテーブルを見つめている。



「…要子がそう言った?」

「えっ、ううん、聞いたことないよ、そんなの」



手を振って否定して、あれ? と不安になる。

そういえば、誰ひとり、そんなこと言っていなくない?
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