クールな御曹司と愛され政略結婚
あれえ…。

ちょっと頭を整理しようかな、と目をつむってこめかみを揉んだ。

要するに、全部、いやほとんど私の勘違いだった、と…。

10年…。

結果オーライという言葉と、それでいいのかという疑問が行き来する。

突然、おでこに激痛が走った。



「いったーい!」

「お前、俺になにか言うことないのか」

「誤解してました」

「それだけかよ!」



指で弾かれた額を押さえ、ほかになにを言えと、という気持ちでふてくされた。

灯が片手に顔を埋め、疲れた声を出す。



「要子と結婚とか…考えただけで精力絞り尽くされる…」

「そこまで…」

「あいつが俺を取るとか言いだしたときだって、もう、フラッシュバックっていうか、こう」

「ご、ごめん」



これは、姉に関する相当なトラウマがある感じだ。

姉のほうからも話を聞きたいな、と薄情なことを考えていたのがばれたのか、指の間からじろりとにらまれた。

けどすぐに、気を落ち着けるようにふうと息をついて、灯が身体を起こした。



「でもまあ、お前たちは姉妹だし、たぶん複雑な思いが唯にもあったんだよな。そこは俺、あんまりわかってやれない部分で、無頓着すぎたのかなと反省もしてる。悪かった」

「そんな」

「さて」



だしぬけに灯が、ナプキンをたたんでテーブルに置いた。

いきなり話を終わらされる気配に、えっと私は慌てる。



「どうしたの?」

「実は上に部屋をとってある」

「ええ!?」

「誤解も解けたことだし、楽しもう。オーシャンビューのスイートだぜ」



このホテルのスイートって、おいくら! と下世話な発想がまず浮かび、いやそれよりも、と目先のことに頭を戻した。

灯はもう席を立って、私を待っている。
< 161 / 191 >

この作品をシェア

pagetop