クールな御曹司と愛され政略結婚
あのころって、"身近"がとにかく一番強いんだよね。

わかるわかる。



「でもじゃあ、なんで高校で?」

「………」



灯は口を開けたものの、そこからはなにも出てこない。

再び唇を引き結び、なにやら深刻な表情で黙り込んでしまった。



「え…なに?」

「まあ、要子を悪者にしたいわけじゃないけど、俺の立場から言わせてもらえば、あれは"食われた"という理解が一番近い」

「食われた!?」

「正直、そのことは思い出したくない」



ぎゅっと口元に力を入れて、険しい顔で視線を下向けている。

どうやら本当に思い出したくないらしく、そこにはもはや恥ずかしいとか甘酸っぱいを超えたなにかがあるのは一目瞭然で、かえって興味をそそられた。



「え、気になる、なにされたの」

「言わない」

「ショックだったの?」

「俺がガキだったこともあるが、その後の俺の性癖が歪んでもおかしくなかったようなことはされた。想像できるだろ、あの要子だぜ」



一応血のつながった姉なので、正直そういう方面の想像というのはなかなかしづらいのだけれど、言わんとすることはまあ、非常によくわかる。



「じゃあ、大学に上がってからのは…」

「唯がどのタイミングのことを言ってるのかわからないけど、要子はそれからも、男が切れるとあからさまに誘ってくることがあった。俺はもう、必死にかわしてる状態だったから、余裕もなくて、記憶も薄い」

「でも離れてったとき、落ち込んでなかった?」

「あるときいきなり『もう灯に近づくのはやめるよ』って言われた。落ち込んでたわけじゃない、わけがわからなくて混乱してただけだ。あと安心もしてた」

「お姉ちゃんが駆け落ちしたときの心境は」

「すごい男もいたもんだなあ、と」
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